古 事 記

 古事記は、第40代天武天皇がその編纂を思いつき、稗田阿礼28歳に帝記(ていき)や旧辞(きゅうじ)を誦習(しょうしゅう)させ、天皇の崩御の後、奈良時代になって、712年(和銅5年)正月28日第43代元明天皇の御世、太安萬侶により稗田阿礼の誦習が筆録され完成しました。

 なお、稗田阿礼の先祖は、天照大神が天岩戸(あまノいわと)にお隠れになった時、岩戸の前で日本初のストリップを踊った天鈿女命(あめノうずめノみこと)で、瓊々杵尊(ににぎノみこと)が天孫降臨の際、お供をして、その時、天浮橋(あめノうきはし)でサーチライトを照らし、迎えに出て、道案内をした道祖神(さえノかみ)の猿田彦大神(佐太大神)と、後に所帯を持ち、その子孫が稗田阿礼です。

 また、猿田彦は、日本海に面した大山・隠岐国立公園、松江市島根町の「加賀(かが)の潜戸(くけど)」(4月〜10月遊覧船で潜れます)で生まれ、後に伊勢の国(三重県)の五十鈴川のほとりに鎮座し、彼は極めて長身で、赤ら顔をして、鼻が非常に高く、容貌魁偉(ようぼうかいい)な姿をし、今でも時々、大きな神社(大和神社など)の例祭で、御旅所まで「お渡り」がある時には、高下駄を履き、天狗の格好で鉾を持ち、先頭に立って道案内をするが、仏教の影響を受けて、「猿」と「甲」が混同され、庚申(こうしん)の日にも祀られます。

 所で、古事記は、上・中・下の三巻からなり、上巻は天地創造〜ウガヤフキアエズノ命までの神代の事柄で、中巻は初代神武天皇〜第15代応神天皇まで、下巻は応神天皇の皇子第16代仁徳天皇〜初の女帝・第33代推古天皇までの系譜、事件等が記され、そこには112首の歌謡や、歌物語風の説話、伝承、神話を含み、文学性にも富んでいます。

 更に、681年(天武10年)天武天皇は稗田阿礼の誦習する所を川島皇子、舎人親王ら皇族6名と、中臣連大島以下6名の官人にも編纂させて、古事記に遅れること8年、720年(養老4年)女帝第44代元正天皇の御世に完成したのが「日本書紀」30巻で、同じ様な事が書かれていますが、読んで面白いのは古事記で、

 ちょっとエッチな国産み神話は、伊耶那岐(イザナギ)と伊耶那美(イザナミ)が天浮橋に立って天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした下界を「こんろ、こんろ」とかき混ぜ、矛を持ち上げると、矛の先から滴り落ちる潮で淤能碁呂島(おのごろじま)が出来、二人はその島に天下り、天御柱と八尋殿を建て、イザナギがイザナミに「お前の体はどうなっているか」と尋ねると、「私の体は1ヶ所だけ足りず穴ぽこがあります」と答え、イザナギは「私の体は1ヶ所だけ有り余って飛び出し突起がある」と云い、そこで、イザナミの穴ぽこにイザナギの突起を突っ込んで産んだのが、淡路島、胴体1つ顔4つ(愛媛、香川、徳島、高知)の島(四国)、隠岐の島、また、胴体1つ顔4つの島(九州)、壱岐、対馬、佐渡島、そして、大八島国(おおやしま、本州)を産み、更に吉備(岡山)の児島、小豆島、周防(山口)大島、姫島、五島列島、男女群島などを産み、最後にイザナミは迦具土(かぐつち、火の神)を産んだため陰部(ほと)を焼いて亡くなりました。

 なお、「古事記」の神代には書かれているけど、「日本書紀」に書かれていないのが、出雲神話の1つ「因幡の白兎」で、隠岐島の海士(あま)町知々井の保々見湾に浮かぶ「経(きょう)島」へ棲んでいた白兎が、本土へ渡ろうとして、隠岐島から因幡の浜へ鰐鮫(わにざめ)を欺いて並べ、その背を飛んで行ったけど、最後に嘘がばれて、皮を剥がされました。だから現在は、隠岐島の他の3島には兎が棲んでいるのに、「経島」および「経島」のある「中ノ島」には兎が飛び出して1羽も棲んでおりません。また、皮を剥がされた兎は、ちょうどその時、大国主命(おおくにぬしノみこと)の兄達(八十神、やそがみ)が因幡の国(鳥取)へ行き、八上媛(やがみひめ)を嫁にしようとしているのに出会い、兎をからかって、「塩水で冷やす様に」と云い、痛がっている上に選りによって酷い仕打ちをしました。

 そうしたら、兄達の荷物を全部持たされていた弟大国主命が後からやって来て、兎を助けてやり、八上媛は大国主命の嫁になったので、怒った兄の八十神達が、大国主命を伯耆国(ほうきノくに、鳥取県)の手間(てま)の山へ連れて行き、焼いた岩を転がして「それ赤い猪だ、受け止めろ」と云って騙したり、また、大きな木の股に挟んで弟を殺そうとしたので、大国主命は八岐大蛇を退治した素盞雄(すさのおノ)命のいる根堅国(ねノかたすノくに)へ逃げて行き、そこで素盞雄命にいびられましたが、須勢理姫(すせりひめ)に助けられ、彼女を妻にすると、因幡の国から、八上媛がやって来て、その途中で、島根県斐川町の「湯の川温泉」に入って、出雲に赴くと、ヒステリックな須勢理姫がいたので、八上媛は、因幡国へ逃げ帰る事になり、また「湯の川温泉」に浸かって、次の歌を詠みました。

 大山の麓の湯こそ恋しけれ 身を焦しても 妻とならめや

 それから八上媛が益々美人になったので、湯の川温泉は神代の昔、日本三美人の湯になりましたが、彼女は失恋し、因幡の国へ泣き泣き帰りました。

 また、大国主命の子で、島根半島の東端「美保神社」に鎮座する事代主命(ことしろぬしノみこと、恵比寿)は、ある時、島根県東出雲町揖屋の遊郭に夜遊びに行って寝ていたら、寝ぼけた鶏が時を間違えて鳴いたので、慌てて船を出した所、誤って櫂を流し、仕方なく自分の足を櫂の代わりにして漕いでいると、中海の沖合いで鰐鮫に片足を食い千切られました。事の起こりは阿呆鶏が時を間違えて鳴いたのがいけないと、それ以後、美保関町では昭和の初めまで鶏を飼うこと無く、卵も食べておられません。

 更に、JR木次線の「出雲みなり駅」から八岐大蛇が住んでいた斐伊川の支流、馬木川に沿って上流(南)へ向うと、約3キロの大渓谷に巨岩、奇岩が無数に横たわる「鬼の舌震(したぶるい)」があり、「出雲風土記」によると、鰐鮫が玉日女命(たまひめノみこと)を慕って、日本海から上がって来たけど、そこで巨岩にさえぎられ、合えなくて、サメザメ泣いたと云う悲恋の話が綴られていますが、

 白兎の皮を剥いで因幡の赤兎にしたり、恵比寿(事代主命)さんの片足を食い千切ったり、玉日女命に横恋慕をして振られたりした「鰐鮫」は、山陰地方で誰も食べず、「かまぼこ」にするぐらいですが、中国山地の山懐、広島県三次市では、昔から盛んに食され、今では郷土料理(ワニ料理)になっていて、ワニは鰐(わに)でも、ハンドバックになるクロコダイルやアリゲーターではなく、鰐鮫でした。

 なお、白鳥庫吉、和辻哲郎らは天照大神が邪馬台国の女王卑弥呼と云う説を唱えていますが、それを信じるなら、天照大神が禊(みそぎ)をして生まれたのが、天忍穂耳命、天穂日命、天津彦根命、活津彦根命、熊野櫲樟日命の5柱で、第1子の天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)の4代後が神武天皇です。なお、神武は「古事記」で神倭伊波礼琵古命(かむやまといわれひこのみこと)、「日本書紀」で神日本磐余彦尊(かむやまといわれひこのみこと)と称され、彼は45歳のとき、日向国(宮崎県)の高千穂宮で、兄弟や皇子を集め、「天孫降臨(先祖の神が天の高天原から地上の葦原中国に天下って)以来、179万2470年経つが、未だに天下を治めていない。何でも東へ行くと、青い山に四方を囲まれた美しい土地があると云う、そこで大業を広げ、天下を治めたいと思う」と宣言して、東征に乗り出し、豊後水道を通って瀬戸内海に入り、大阪湾の枚方の津から生駒山を越えようとすると、土地の豪族・長髄彦の軍に阻まれ、兄の五瀬命を失ったが、 これは、日の神(天照大神天照大神)の子孫である我らが日に向かって攻めたからいけないと悟り、そこで和歌山を迂回して、熊野から八咫烏の先導で十津川を通り、宇陀の高城で休息し、女坂男坂を突破して、八十梟帥(やそたける)軍を墨坂で破り、日を背にして戦うと、金の鵄が弓先に止まり、目の眩んだ長髄彦が敗れ、今から2672年前、鳥見山で先祖の神々に戦の援護を感謝の後、2月11日橿原の宮で初代神武天皇に即位して、大和朝廷の世が始まり、神武天皇は狭井川の畔で百合を摘んでいた五十鈴姫を見初めて皇后にし、その31年後の4月1日掖上巡幸で国見山に登って国見をされ、 「秋津洲(あきつしま、日本)は、狭い国ではあるけれど、蜻蛉(あきつ、トンボ)がトナメ(交尾)をしている様に山々が連なり、なんと素晴らしい国だ」と、感嘆しました。

 また、古事記の上巻に登場する須佐之男命(すさのおノみこと)は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の弟で、出雲の斐伊川(ひいかわ)の上流に棲んでいた、頭が八つに尾が八つの八岐大蛇(やまたのおろち)を天羽羽斬剱(あめノははぎりノつるぎ=十握剱、とつかノつるぎ、今は石上神宮の祭神)で退治して、八つ裂きにすると、大蛇の尾から天叢雲剣(あめのむらくぼのつるぎ)が出て来たので、それを姉の天照大御神に献上しましたが、その後、孫の邇邇芸(ににぎ)の命(みこと)が天叢雲剣をもらって天鈿女命らと天孫降臨(てんそこうりん)し、天(あめ)の高天原(たかまがはら)から地上の葦原中国(あしはらのなかつくに、日本)の高千穂の峰へ天下って、その後、子孫の神武が日向(ひうが、宮崎)から東征して、大和を平らげ、初代天皇になって、後の第12代景行(けいこう)天皇の子が倭建命(やまとたけるノみこと)で、彼は天叢雲剣をもらって東(あずま)へ東征するとき、静岡県で火責めに遭ったけど、天叢雲剣で草を切って助かったので、その地を焼津と云い、また、天叢雲剣は名を変えて草薙剣(くさなぎのつるぎ)と呼ばれ、皇室の三種の神器の1つで、今は名古屋の熱田神宮に祀られています。


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